カランコロ〜ン
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今日も来た
ここは 私のなじみのＢＡＲだ
名前は
「 パッションフルーツ passion fruit 」
おや？
先客が居るな 見たことない顔だな
どれ
私が常連ってのを アピールしてみようか
「マスター いつものヤツ」
フッ 緊張してる体がさらに縮こまりやがった
私を ちらっと横目で見たな
心配すんなよ 喧嘩吹っ掛けたりしねぇよ
今日は 私を見て この店のルールを勉強しな
新入りの通る道だ 毎日くりゃ慣れるさ
「いつものヤツ」って言っても
飲み物は 花の蜜ストレート
つまみは 花粉
これだけだけどな
だが
マスターこだわりの 花の蜜ストレートは旨い
ＢＡＲ「ハイビスカス」や
呑み処「たち淡雪せんだん草」の蜜とはひと味違う
南国を感じさせる甘さなのに あと味は爽やかだ
つまみの花粉も 最高に甘いし香ばしい
花の蜜ストレートとの相性は抜群だ
おっ 新入り いい顔して飲んでるな
どうやら この旨さがわかるようだな
しかしマスターのこだわりは 旨さだけじゃない
店の内装にも こだわってんだぜ
どうだ 白と紫の色の糸が放射状に広がってるだろ
これは 客が着地して留まりやすい様になっているんだ
他の店にはない形だろ
内側が紫なのは ここに蜜があるぞって教えてくれてるのさ
そして 頭の上にある出っ張った不思議な形のモノが
パッションフルーツの和名「 果物時計草 」の由来になるのさ
時計の針みたいだろ
これが この店の 一番大事な･･･
おっと！ いけない もうこんな時間だ
長居しすぎたな
早く帰らないと 女王蜂に怒られちまう
「マスター また来るよ」
マスターが いつものお土産を渡してくれる
「 花粉団子 」だ
これを持って帰ると 子供たちが大喜びさ
「 マスター いつもありがとう また明日 」
代金を払わず 急いで出ていく私を
新入りのヤツが 怪訝そうに見ている
いいか 新入り
この店のルールをよく見ておけよ
この店で一番大事なことは
私の体にたっぷりと付いている花粉があるだろ
これをだな
この頭の上にある 不思議な出っ張りに擦り付けて
店である花に 受粉させるってことだ
この店は 金なんて取らないんだ
他の花から持ってきた 花粉が代金なのさ
わかったな 新入り
明日は もっと花粉を付けて来い
これが この店の いちばん大事なルールだ
